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東京五輪男子ゴルフで金メダルを目指す松山英樹選手(29)は31日、3日目のラウンドに臨んだ。4月のマスターズ・トーナメント制覇に続く快挙を狙う松山選手の手袋を作るのは、香川県東かがわ市の工場で50年以上働く一人の女性。職人技が、プロの繊細な感覚を支えている。(有留貴博、中山真緒)
同市のスポーツ用手袋メーカー「ハシセン」は、「スリクソン」ブランドなどのゴルフ手袋を、OEM(相手先ブランドによる生産)で製造。松山選手がプロ転向後の2013年から使うオーダーメイドの手袋をすべて作っているのが、入社57年の山下多美子さん(71)だ。
ベテラン一人に任せている理由を、橋本庄市社長(64)は「縫製が1ミリ違うと着け心地が変わる。他の人に任せられない」という。
山下さんは、指先の感覚を頼りに、手作業で縫製する。季節で縫い方を変え、痩せる夏場は少しきつめに作る。他のプロより生地が少し厚めなのは、「ハードに打つ松山選手に合わせた」(橋本社長)という。
1日に作れる数は30枚が限界。目が疲れると、どうしてもミリ単位のズレが生じる。山下さんは自分ではめて確認し、やり直す。それでも、松山選手から「指の股が深い」「きつい」と細かい注文が入る。
松山選手のために作る手袋は年間約500枚。他のプロ選手の5倍だ。山下さんは、毎日新しい物に替えている、と聞いた。「それだけ手の感覚を大事にしている、ということなんでしょう」と推測する。
13年のプロ初優勝時、自分が作った手袋を着けているのを見て喜びが湧いた。「テレビでも、顔より手袋を見ちゃう」と笑う。
1回くらい、勝つところをゴルフ場で見てみたいが、松山選手は日本での試合が少なく、仕事もあって願いはかなっていない。無観客の五輪もテレビで見守る。「自分の作った手袋で、金メダルを取ってくれたらうれしい」